送りの儀(後)

病院にかけつけると、ベッドの上にまだほんのり暖かい義母が横たわっていた。
安らかな顔。まるで普通に眠っているような。

葬儀場に手配して、運び、通夜は今夜18時、葬儀は明日13時と午前中にあらかた決まり、
私は子どもたちを連れに行くのと喪服の用意のため一旦、帰宅。

16時頃に葬儀場に着いた時には枕経はすでに終わり、葬儀の準備もあらかた出来上がっていた。

入り口には故人を偲ぶためのコーナーが設置され、
喪主である主人の言葉が思い出の写真とともに大きなパネルになっていて驚く。

追憶

「子どもの気持を尊重してくれる 懐の深い、大らかな母でした」
「背筋を伸ばして歩きなさい」が口癖だっただけに、
晩年になっても母は姿勢が良く、きびきびと美しい歩き方をする人でした。
散歩をしながら四季それぞれの風を感じるのが好きで、
花見をしながら観音の自宅から三滝まで歩いてしまうことも多かったようです。
好奇心が旺盛で、何でも自分の目で確かめたい人だったので、
幼い頃はよく母に連れられて歩いたものでした。
・・・・・・・・

春爛漫の平成二十二年4月二十日、母は八十五年の生涯を終えました。
生前、皆様との良きご縁に恵まれ、
母の人生を豊かにしていただきましたこと、心より感謝いたします。
本日のご会葬、誠にありがとうございました。

祭壇には、義母の大好きだった明るく可愛らしい花々が飾られ、
嫁たちで選んだ一番義母らしい写真が遺影として正面に置かれている。そのフレームも義母らしいピンク。
「お義母さん、嬉しいじゃろうね。こんなに花がいっぱいで」
「でも、生きているうちにこれくらいしてあげたらよかった・・・」涙は止まらない。
入り口 祭壇
見舞いのため遠方の親戚たちがこちらに滞在していたのは幸いだった。多くの人が通夜に列席してくれた。
葬儀場のスタッフが細かに指示してくれるので戸惑わないですむ。
読経、焼香、喪主挨拶と式は滞りなく終り、親族で会席。
三兄弟と夫の長男がそのまま泊まりこむことにして、私たちは一旦帰宅。

翌日11時ぐらいに斎場に着くと、
他の嫁たちは先に来ていて「お義母さんの顔が変わっている」と騒いでいた。
見ると、前日化粧をされたときに無理に作られたような笑顔になっていたのが緩んで生前に近い表情をしており、
目もうっすらと開いていた。
霊的に敏感な三男の嫁の夢にも出てきて涙を流していたらしい。
「思いが残っているのかしらね」と次男の嫁が言う。
霊感0の私には何も見えないし夢にも出てきてはくれなかったが、
人見知りでほとんど部屋から出てこなかった義母の猫が急に懐くようになったという変化があった。
「死んだ後でも皆のこと気にかけてくれているのかも」
そういう人だった。

本葬には、平日にもかかわらず多くの人が来てくれた。
受付は、夫の長男長女と次男の長女。
夫の会社関係の人や友人たちも駆けつけてくれ、ありがたい。
式は通夜と同じような流れで進み、最期に全員でお別れを言いながら花で棺を一杯にした。
「おかあさん・・・」
現実感がなくて確かめるようにそっと頬に触れてみる。
冷たいけれど、やはりあの義母とここに横たわっている遺体が同じとはどうしても実感できない。
蓋を閉める時には、夫の長男が目を押さえ顔をグシャグシャにして声を出さずに大泣きをしていた。

バス2台で焼き場に行く。
待つ間、弁当を食べたり、めったに会うことのない親戚たちと話をした。
義父の葬式の時にドアで指を挟んで爪を剥がした長女を介抱してくれた叔母にもその時以来。
3歳だった娘が14歳。「まあ!こんなに大きくなって」と驚かれる。
もうそんなになるんだなと、時の流れの速さを思う。
お骨は、彼女の好きだった淡いピンク色の骨壷におさまった。

帰るとき、夫が「今日はこのままお骨を家にもって帰ってもいいか?」と聞く。
病院でさんざん寂しい思いをさせたから、もう一人ぼっちにはさせたくないと。
それはもちろん。

これから初七日、四十九日。
実家の片付けなどもしなければならない。
皆の帰るところがなくなってしまうのはとても寂しいけれど、仕方ないこと。
今でもどこかにいるような気がするのに、もう会えないなんて信じられない。
人の死は、実感するというよりも、時間をかけて納得していくしかないものなのかもしれない。
「さようなら」という言葉は、どうもそぐわない気がする。

(後日談)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お義母さんの顔、変わってたって大騒ぎだったよ。なんで?」と聞くと、

「ああ、あれ・・・」夫が笑い出した。

「俺らがやった」

男連中が夜通し飲んでて、酔っ払った勢いで母親の顔をいじくり回したそうだ。
誰かが「目が開くかな」とやったら、
開いたのはいいけど今度はどうしても閉じなくなってしまって、そのままになったらしい。

どうりで化粧が落ちてたはずだ。

もー、この人達ときたら何やってんだよ・・・・・。

霊感ないけど、私に見える義母の顔は朗らかに笑ってる。


(追記)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
↓教えていただいた花の中の顔です。

顔に見えるけど花だった。偶然?それとも・・・・

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花の顔

コメントありがとう。
長い間、PTAお疲れ様でした。

ご指摘の写真ですが、見ると確かに義母によく似た顔がありましたので、
元写真を拡大してみたところ・・・・・花でした。
でも不思議ですよね。偶然、そう見える画像になってしまうところ。

たぶん、私が思うところでは、
念とか霊とか現実には存在しない物が実体を作ったり、何かを動かしたりはないけれど、
この世の理に則った形で、
実在するものが偶然それらしき姿をとることはあるのかもしれないという気はします。
それが死者の魂の為すものか、残った者の思いが作用したのかはわからないですが、
この日のこの場だからこそ写真に写った顔なのでしょう。

「草葉の陰から」という言葉がありますが、
「花の中から」義母が見守ってくれてると思うと、少し嬉しくなりました。
ありがとうございます。

追記の下に写真を追加しました。
比べると、本当によく似てます。形よりも雰囲気みたいなものが。
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